直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑬

「被検体、目標地点への降下成功。再起動を確認。地表激突時の衝撃による筋肉・骨格・内臓・神経系統の損傷ゼロ」
ドーパミン値、正常に上昇中。アドレナリン変換機、システム・オールグリーン。交感神経とのコネクティング準備完了」
 
山葉組本部の地下の一室。大量の液晶画面の光だけが室内を照らしている。「被検体」から送信されてくる膨大な生体データを映し出すモニター画像を素早く目で追い、せわしなくキーボードを叩き続けながら報告するオペレーター達の背後に、1人の男が腕を組んで立っていた。山葉組幹部のMT-01である。彼こそ「VMAX計画」の運用責任者である。
 
被検体VMAX1200は、ドライブユアドリーム教が開発した宗教改造人間である。
 
VMAX1200は「ドライブユアドリーム教被害者の会」を設立したベンチャーロイヤル弁護士の成れの果である。被害者の会の活動に業を煮やしたドライブユアドリーム教は、山葉組に命じベンチャーロイヤル弁護士を拉致。愛知県豊田市の研究施設で宗教改造手術を施した。
 
この手術は、狭窄衣で被験者の自由を奪った上で、軽度の電気ショックを与えながら、10日から2週間、食事を与えず不眠不休で、ドライブユアドリーム教の教義を聞かせ続ける事で精神汚染を誘発し、自我を崩壊させる「思想改造」の一種である。
 
この手術の成功率は1%を下回り、それまでも多くの脱会者やその家族、ジャーナリスト、異教徒、ルンペン、期間従業員、家出少女達が施術されたものの、教義に綴られた「エコ」「安全」「カンバン方式」「コストダウン」などという忌まわしい文言に耐えられず、数日で神経が焼き切れ心臓が爆発し命を落としてきた。
 
しかしベンチャーロイヤルの頑健な肉体は、この非人道極まりない責め苦に耐えた。そして改造12日目、ベンチャーロイヤルは自らの肉体を縛り付けていた狭窄衣を内側から引き裂くと、教義が録音されているカセットをB面にするため、テープレコーダーの近くにいた研究員の頭蓋を握り潰した。そして「ヴゥイィィィィィ!マァァァァァックスゥゥゥゥゥ~~!!!」と絶叫した。
 
それは同時に、かつての社会正義・弱者救済に邁進した敏腕弁護士の姿は見る影もなく、理性も知性も失われ、破壊衝動とドライブユアドリーム教への絶対的な服従心しか残されていない、哀れな生体兵器に堕したことを意味した。
 
ドライブユアドリーム教としても、初めて開発に成功した宗教改造人間であり、量産化への第一歩と位置付けていた。そこでプロジェクトチームが結成され、山葉組本部にオペレーティングルームを設置。宗教改造人間の量産化に向けた、被検体VMAX1200による実践データの収集こそがVMAX計画の全容である。
 
そんな冷たい光に照らされたオペレーティングルームの冷静さとは対照的に、自分たちのアジトに落下してきた異形の者にZ1000J組の面々は動揺した。
特にVMAX1200にあと一歩のところまで近づいていたCS250は、痙攣を通り越し、俯せのままその場で跳ね続ける全裸の大男の姿に愕然とし、(なんか、漁船に釣り上げたカツオかマグロみたいだな・・・)と、どうでもいい事を考えていた。
 
やがてVMAX1200の跳躍はさらに激しさを増し、倉庫の床から2メート近くの高さまで達した。
流石に、VMAXの跳躍が自分の頭上を越えるに至ると、CS250はようやく我に返った。そして、「いつまでフザけた真似さらしとんじゃ!このホモ豚が!」と一喝し、手にしたドスでVMAX1200に襲い掛かった。
まさにに「単コロのCS250」の二つ名に恥じぬ、VMAX1200の腎臓への最短距離を選択した見事な捨て身の突進であった。
 
しかし、それがZ1000J組・対山葉組攻撃班の運命を決した。
 
CS250のドスがVMAX1200の肝臓を抉ろうと、その右腹部に触れた瞬間。
VMAX1200の巨体が姿を消した。暖簾に腕押しを喰らった格好のCS250は、前のめりによろめきつつ「どこに行きやがったホモ野郎!」と叫んだ。
 
VMAX1200はどこにも行っていなかった。CS250の背後に屹立していた。
 
つづく