直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑮

こちらから仕掛けても埒が明かない。銃弾は全て避けられる。ドスで向かってもCS250の二の舞だ。
しかし幸いな事に、あのバケモノは必ず、自分を攻撃した相手を殺しに近付いてくる。
得体の知れないバケモノに殺されるぐらいであれば、そのバケモノを殺して死んだ方が幾分はマシだ。

恐怖は覚悟によって払拭され、FX400Rは最適解を導き出した。

空になったM3サブマシンガンの弾倉を素早く交換しコッキングレーバーを引くと、すかさずVMAX1200に向けフルオートで射撃を開始。
VMAX1200は一歩も動かず、上半身を奇妙にくねらせる事で、30発の45ACP弾全てを回避した。

FX400Rは、全神経を集中させた。何の前触れもなく、殺気とは違う重圧感が背後から襲ってきた。
この瞬間こそ、FX400Rが待ち望んだものである。
(よっしゃ!)心の中で歓声を上げた。

VMAX1200の巨大な両腕に頭蓋が叩き潰されるよりほんの一瞬先に、FX400Rは自身の腹に布ガムテープで固定していた、自決用のM15対戦車地雷の信管を作動させることに成功した。
約0.058秒の間に、無意識に消去した忌まわしい記憶がFX400Rの脳裏に蘇った。
(そうだ、あの日の夕暮れ、家を出ていこうとする妻と息子を俺はこの手で殺したんだ。2人の血で赤く染まった手の平を夕陽にかざしたときも、こんな真っ赤な・・・)
そこでFX400Rの意識は断絶した。

10kgの混合爆薬の爆発によって、廃倉庫は瞬間的に膨張し、直後に轟音をまき散らして炸裂した。

MT-01の携帯電話が鳴る。観測班からの報告だ。
「被検体活動エリアでの大規模爆発を確認しました」
「わかった」そう答え電話を切ると、
「至急、回収班を向かわせろ。情報班は事後処理にあたれ。警察も消防もマスコミもすでに買収済みだが、一般人の野次馬がネットで動画をアップするかもしれない。現場周辺で携帯電話・スマホを手にしているヤツは1人残らず始末しろ」と命じた。

オペレーターの1人が恐る恐るMT-01に尋ねた。
「もし被検体の生命活動が停止していたら・・・」
「我ら全員、責任を取らされるだろうな。死骸すら回収できなければ命で償うしかないだろう。それが嫌なら、お前たちも回収班と一緒に現地に向かえ。もしわずかでも息があるなら、エセ医者や科学者崩れのお前たちでなんとかしろ」
「司令官殿は?」
「私には本部への報告があるので残る」
「了解しました!」
オペレーター達はノートPCやAED、ノコギリや金槌を抱えて飛び出していった。

10分後。
回収班とオペレーター達は現地に到着し、観測班と合流した。
廃倉庫が建っていた場所は更地となり、辺り一面に瓦礫が散乱している。
いくら宗教改造人間とは言え、基本的には生身の人間である。これだけの爆発に巻き込まれて生きている筈がない。
暗澹たる気持ちで、オペレーター達はVMAX1200の死骸を探し始めた。

その時。
「ヴゥ」と声がした。作業中の全員が動きを止めた。
「ヴゥ、ヴゥ、ヴゥ、ヴゥ、ヴゥウイ~~~~マァ~~~~ックスゥゥゥ~~~~~!!!」
絶叫が鳴り響く。
そして絶叫の音源と思われる一帯の瓦礫がいくつも宙に舞い上がり、その中心に巨大な縮れ毛の塊が現われた。
胸毛式ショックダンパー「ギャラン・ドゥ」の想像以上の効果だ。

オペレーターの1人が歓喜した。
「やった!これで俺たちの命も何とかつながったぞ。ん?おい、どうしたんだ?」
隣の同僚が顔面蒼白でブルブル震えている。
「今、俺たちオペレーター全員がここにいる。じゃあ今、誰がアレを制御しているんだ・・・」
歓喜したオペレーターは事の重大さに気付き、一瞬で絶望の表情に変わった。

つづく