直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑫

静岡県磐田市某所。Z1000J組の静岡侵攻部隊がアジトとする廃倉庫。
対山葉組攻撃班のリーダーを任されていたFX400Rは、西日が射しこむ割れた窓ガラス越しに外の様子を窺っていた。
 
特段、山葉組に新たな動きがあったという情報はない。しかし先日のZ会本家で開かれた幹部会での顛末は、FX400Rの耳にも届いていた。当然、自分の対山葉組攻撃班内でも様々な憶測が飛び交っている。
 
(全く、こっちは手前ェの命を弾にしてケンカをしている最中なのに、本家のお偉いさん方は何をやっていやがるんだ・・・)
カタギの頃に働いていたメッキ工場の事故で硫酸を浴び、ケロイド状になった顔半分を余計に醜く歪ませ、FX400Rは上層部のゴタゴタにウンザリしていた。
 
実際、FX400Rの班に限らず、静岡に侵攻した現場は浮き足立ち、戦意に影響が出始めていた。こんな時、山葉組・鈴木組の攻撃を受けたら状況は厳しくなる一方である。
 
その事を理解していたFX400Rは、だからこそ用心深く、割れた窓ガラス越しの外の様子に注視していた。それが班を任された下っ端の自分の役割だと、FX400Rは正しく理解していた。適度な責任感と緊張、そのお蔭で彼の心は少しばかり落ち着いた。
 
夕陽は今まさに、スタジアムの向こう側に消えようとした。
(アイツがガキを連れて出ていった日も、こんな夕暮れ時だったな)
人とは呼べない異形となった夫を、かつてのFX400Rの妻であった女は愛する事ができなかった。むしろ嫌悪し怖れた。事実、事故後のFX400Rの心は荒れ、酒に溺れ、妻や3歳の息子に暴力を振るった。
 
自らの転落人生が始まった瞬間を、妻と息子の後ろ姿が夕陽に溶けていく情景をぼんやりと思い出していた。
 
ドッカ~~~~ン、バリバリ!!
 
轟音と共に、廃倉庫が震撼した。大量の老朽化した天井材や屋根の破片が、対山葉組攻撃班のメンバー達に降り注いだ。
 
「何が起きた!」FX400Rが絶叫した!
「わ、わかりません・・・」CS250が狼狽しながら答えた。
「どうやら、何かがこのボロ倉庫の天井をブチ抜いて落ちてきたようです」KS1が冷静に答えた。
確かに倉庫の天井に大穴が空いており、夕焼け混じりの薄紫色をした星空が顔を覗かせていた。
 
問題は「何が」落ちてきたかだ。
 
倉庫内に充満した大量の粉塵によって、穴の真下に何があるのかはわからない。
 
爆弾か?いや、爆弾ならとっくに爆発していておかしくない。仮に時限式であっても、これだけ完璧な奇襲なのだから、そんな回りくどい事をするはずもない。では何だ?
 
FX400Rをはじめ対山葉組攻撃班全員が思考した。同時に得体の知れない「何か」への恐怖心が鎌首を上げ、彼らはそれぞれの得物を手にし、穴の真下に銃口や切っ先を向けた。
 
FX400Rの背後の割れた窓ガラスから差し込む、僅かばかりの西日が倉庫内を頼りなく照らしている。粉塵が少しずつ晴れるに従い、落下してきた「何か」の姿が明らかになっていく。
 
そこには、全裸の大男が俯せで倒れていた。
 
「へ?何だこりゃ?ホモのストリッパーの飛び降り自殺か?ビ、ビビらせやがってよ!Z1000J組の『単コロのCS250』っていや、ちったぁ~知られた名なんだ!ふざけやがってヘンタイが!!」
あまりにも意外な「何か」の正体に、それまでの恐怖から解き放たれたCS250は、気炎を上げながら俯せの大男に近づいた。
 
「ヴゥ・・・」
大男が声を発した。
「ヴゥヴゥ・・・ヴゥ!ヴゥ!ヴゥ!ヴゥイィィィィィ~!マァァァァァ~・・・アッ!・・・クスゥゥゥゥゥ~!!!」
 そしてその肉体は激しく痙攣し始めた。

CS250は硬直した。
 
つづく