直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑩

Z1100GP組の関東侵攻部隊を率いるはずであったVN1500が、本田技研興業のヒットマンであるV45マグナに暗殺されたのは、本田技研興業本部ビル襲撃の半月後の事であった。
まさに、出端をくじかれる格好となった。
 
Z1100GPは急遽、バルカン800VN1500の後釜に据え、当初から予定していた東京侵攻を開始。しかし、首都圏にあらかじめ用意していた複数のアジトは、悉く本田技研興業の襲撃を受け、EN400、バルカン400エリミネーター125などVN組の主だったメンバーをはじめ、侵攻から僅か1ヶ月足らずで戦力は半数までに激減した。
 
一方、本田技研興業本部ビルに壊滅的な損害を与えたる暗殺部隊はすっかりと鳴りを潜め、どこに潜伏しているのか本田技研興業はもとより、Z1100GP組ですら把握できないでいた。
つまり、本田技研興業の怒りの矛先は、表立って活動するZ1100GP組の侵攻部隊に全て向けられた。その結果が、この壊滅的な状況である。それは組織内において、Z1100GPの「失態」として捉えられる事になった。
 
Z1100GP組による東京を中心とした関東侵攻は、秘密裏に進められているZ会とドライブユアドリーム教との交渉を、外部はおろか組織内でも悟られないようにするための陽動である。その事を知るのは、Z1000RZ1100GPの他、ドライブユアドリーム教との窓口役を任されているZ750ツインの3名だけであった。
 
「ワシの見込み違いだったようだ。お前には荷が重かったか?」
直参幹部が一堂に顔を並べる定例幹部会で、Z1000RZ1100GPを見やりながら失望の声を上げた。幹部会の空気が凍りつく。組織のトップが、浅からぬ関係であるNo2をあからさまに罵倒したのだ。
Z1100GPは顔を俯け、小刻みに震えている。
 
もちろんこれは、Z1000RZ1100GPが予め打ち合わせて行った茶番である。現時点での関東侵攻が、単なる時間稼ぎである事を組織内でも秘匿するため、Z1100GPが不手際を犯したように直参幹部達に思わせるポーズである。
 
Z1000Rとしても、このような茶番は面白くない。義兄弟であるZ1100GPに対し、このように不当な屈辱を与える事は心苦しい限りだ。
 
だが、しかし、Z1000Rはそのような自身の人間的感情を、その冷徹な理性で容易くねじ伏せる。それこそ、巨大な悪のコングロマリットを統べる者に、欠くべからざる資質だ。
 
Z1000Jも随分と手前ェのトコの若いモンを死なさせているが、それ以上に山葉や鈴木んトコのダニどものタマ取っている。GPZ1100Fも配下のNinja組の連中が鈴鹿八耐組と互角に渡り合っている。なのに兄貴分のお前は何をやっていやがる。わざわざ例の連中も預けてあるのになあ」
Z1000Rはそう言い放ち、憤怒の表情でZ1100GPを睨みつけた。
「もうええわ。お前の失態の尻拭いは、ワシらで考えてやっといてやるから、お前は帰れ」
Z1000RZ1100GPに命じた。
Z1100GPは無言で席を立ち、幹部会が行われていた広間から出て行った。
 
(すまんZ11000GP
Z1000Rは心の中で呟いた。
 
その夜。
新開地の高級クラブに、Z1100GPの姿があった。腸が沸騰しているのであろう。アイスペールに並々と注いだマッカランを、がぶがぶと飲み干した。
 
侍らされているホステスたちは、Z1100GPが無言で自分の目の前に突き出したアイスペールに、最大限の慎重さで高級ウイスキーを満たす作業に専念した。いつもの「強面だけど愉快で優しい親分さん」とは一転したZ1100GPの様子に、恐怖を感じていた。
 
Z1100GPは、やり切れない屈辱と怒りを溜め込みながら、ひたすら酒を飲んだ。
 
(全ては理解している。Z1000Rの兄貴だって好きであのような真似をしたのはわかっている。
だが、兄弟分のZ1000Jと比べられるのならまだしも、新参のGPZ1100Fまで引き合いに出す事はねーじゃねえか。それに、直参幹部の連中。ずっと黙りこくっていたが、奴ら、腹の中じゃオレの事を笑っていたんじゃねえのか?クソッ!クソッ!クソッ!!)
 
「あ、Z1100GPの兄さん。どうも」
GPZ1100FZ1100GPの前に立っていた。
 
つづく