直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

お盆中に間に合った♪

今週のお題「怖い話」

 

午前中、雑魚釣りに出掛けたのですが、昨日の大雨のお陰で川の水は茶色く濁り、これには流石に興がそがれてしまいまして、あてのないドライブと洒落込む事と致しました。

 

国道50号線を西進。

まさに、「おじいちゃん家で過ごした思い出の夏休み」といった風景が、道路の両側に広がっちょります。

 

やがて「右折・茂木・真岡」の看板が。考えもなく右折し県道へ。そうそう、この道,

10年位前、当時の愛車W126・300SEで走ったな。

 

 しばらく走ると、川沿いの峠道となり、道幅が極端に狭くなる。そうそう、あの時、ドン臭い軽自動車が前にいたんだよ。そもそもスピードは30キロも出ていないくせ、やたらブレーキを踏むは、カーブに差し掛かるとそれこそ「そこで停まるのかよ!」とツッコミたくなるほどスピードを落とすわ、とにもかくにも邪魔臭い。で、センターラインのない道路のど真ん中を走り続けているから抜くに抜けない。

 

だもんだから煽り倒してやったのよ。

 

したら泡食ったみたいで、右カーブでハンドルを切り損ねたらしく、そのまま川側に転落。道路から川まで高さ5メートル以上はあるのよね。

 

あまりの滑稽さに思わず爆笑してしまったが、すぐに「コレってヤバくね?」と我に返り、そのまま脇目もふらず走り去りました。

 

結局、その翌日の地方紙に軽自動車の転落事故を報じる記事はありませんでした。

すなわち、死者も重傷者も出なかった、単なる自損事故で終了したという事です。

面倒事に巻き込まれるかもと思っていたので、これで一安心。

 

そんな忘却の彼方に消え去った10年ぐらい前の記憶を思い返しながら、軽自動車が転落したカーブを通り過ぎ、少し走ると小さな集落に行き当たりました。その入り口辺りに「池端酒店」という、恐らくこの集落唯一の商業施設があり、飲み物を買おうと立ち寄ったのです。

 

薄暗い店内に入ると、ジュースやビールが陳列している冷蔵ショーケースに電気が点いていないことに気が付きました。「なんだよ、潰れてんのかよこの店!」と悪態をつくと、「いらっしゃい」という声が聞こえ、奥からアッパッパを着た婆さんが出てきました。

「あ、いや、その、すいません。冷たいジュースかなんか買おうと思って・・・」

「いやね、店の冷蔵庫、壊れちゃっててね、こちらこそごめんなさい。そうだ、よかったら、冷たい麦茶があるのでどうかしら?」

気まずいので早々に退散したかったのですが、せっかくの好意を断るするのも失礼の上塗りをする気がしたので、「それはありがたい。いただきます」と答えました。

婆さんは、はいはいと言いながら奥に引っ込みました。

 

店内に1人残された私は、陳列棚にまばらに並んだ商品をぼんやりと眺めてみました。カップ麺や菓子パンはまだわかるが、どうして酒屋に漂白剤や香典袋が置いてあるんだよ。まあ、この集落のニーズってやつでしょうね。ここしかお店ってないみたいだし。

そう思いながら、陳列棚のヤマザキのカレーパンを何の気なしに手に取って、裏を見ると消費期限の数字が目に入ったのです。

H3・10・21

私は戦慄しました。

 

なんだ、この店、20年近く前のカレーパンを平気で売ってんのかよ!て事はアレだ、今から婆さんが持ってくる「麦茶」って、どんな代物だよ。

私の緊急事態宣言はMAXとなり、一目散に退散しようと店の出入り口のガラスの引き戸に手をかけたのですが。

開かない。

店に入るときは問題なく開け閉めできたのに、引き戸は微動だにしません。

私は後悔しています。この時、引き戸を蹴破って逃げ出すべきでした。可能な限り穏便に済ませたいという気持ちがあった為、果断な行動を躊躇させたのです。

 

「ダメですよ、お客さん」

婆さんの声がした。

「表から、ウチの旦那が押えているんですから。おほほほほほほ」

ガラス越しにハゲジジイがニタニタ笑いながら引き戸を押さえている光景に、今更ながら気fが付きました。そのジジイの目や耳や口や鼻の穴から、茶色の、実にいやらしい液体が、シンガポールマーライオンの如く、止めどなく噴出しております。

婆さんの持つお盆の上に、得体の知れない茶色い液体がなみなみと注がれたグラスが載っていました。

「これ、搾りたての旦那の体液をカルピスで割った、この集落特産の麦茶」

「飲めよ、ほら、飲むんだよ!」

 

何故か知らねど私の身体は、この時点で、私の脳の指令に全く従わなくなってしまいました。ああ、そうか。いつの間にか表に居たはずのハゲジジイが店内に潜り込み、私の四肢を強力に羽交い絞めていたからです。ハゲジジイの顔中の穴から、相も変わらずいやらしい茶色の液体がドバドバとほとばしり続けています。

 

「私の旦那、アタシの父ちゃんはね、あんたのベンツに煽られて、クルマと一緒に川に落ちて死んだんだよ。3日後に見つかって。・・・そしたら目玉も舌も川ガニに食われていてさ、真黒な穴になっていて、そこから泥水を噴き出しながら、消防隊員に川から引き揚げられたんだ。さあ、飲みなさいよ、あたしのお父ちゃんの汁、飲みなってんだよ!」

 

因果応報、なるほど、こーゆー事か。

そーいやさっき、NHKFMの「KABUKI TUNE」で尾上右近が似たような怪談を歌舞伎風に話していたんですよ。

 

私は、自分の命が明滅するのを感じました。

 

口腔に泥臭い腐った血反吐を流し込まれ、呼吸を確保をする為、その汚物を否応なく飲み込むと、私の食道・胃は猛烈な拒絶反応を示し、その汚物を空虚にブチ巻けようと必死の抵抗を試みました。しかし無駄でした。結局、汚濁は私の口腔内で滞留するだけ、その場を立ち去ろうとしません。婆さんに直径15センチはある真鍮製の漏斗を口に突き入れられいたから当然です。

汚物の毒で死ぬのではなく、汚物で窒息死させられるのです、私は。

それを理解すると、改めて「因果応報」と言う、極めて単純明快な道徳を受け入れる事にしました。

こうして私は地獄に堕ちたのであります。

 

 

 

・・・えっと、この記事、誰が書いたの?