直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑭

自分の背後に突如として発生した圧迫感に、CS250の本能は即座に反応した。不安定となった態勢を踏み堪えた右足を軸に全身を回転させ振り向いた瞬間。
VMAX1200の右前腕がしなりながら襲い、CS250の上半身は消し飛んだ。
下半身のみのCS250の死骸がじんわりと崩れ倒れる様子を、FX400Rをはじめ対山葉組攻撃班の面々は茫然と眺めていた
 
「自己防御プログラム作動。排除対象1体の消滅を確認」
「排除行動時の衝撃による右腕の骨格筋、神経筋接合部、各骨格へのダメージなし」
「心拍数87、血圧239185ともに正常」
VMAX1200の各部に取り付けられたセンサーから送られてきた情報を読み上げ続ける、無機質な声だけがオペレーティングルーム内に流れる。
 
CS250のあまりにも呆気ない死を受け入れ、対山葉組攻撃班のメンバーは我に返った。
「化け物が!」
FX400Rの率直な感想は、そのまま攻撃命令となった。VMAX1200に向け、各々が手にした拳銃やサブマシンガン、ライフルの引き金を引いた。倉庫内に雑多な銃声が充満する。
しかし、集中砲火を浴びるはずであったVMAX1200の姿はすでにそこにはなかった。最初の銃弾が発射された瞬間に、自己防御プログラムは「退避」を肉体に命じ、VMAX1200の巨躯は跳躍し床から5メートルの高さにある梁の上に移動していた。
そしてVMAX1200は、足下の対山葉組攻撃班達を腕組みして見下ろしていた。
 
前頭葉へのアンフェタミン注入量毎分6000を維持」
「システム冷却用水素水循環装置スタンバイOK
「チャンバー内のテストステロン充填率120%に到達」
「胸毛式ショックダンパー『ギャラン・ドゥ』展開スタート」
「バイパス内壁、基準耐圧値をクリア。司令、いつでも起動できます!」
それまで、冷静さを保ってきたオペレーター達がいささか興奮してきた。
 
VMAXの視神経から送られる映像から、排除対象達が狼狽し浮き足立っている状況を確認すると、MT-01は静かに命じた。
Vブースト起動」。
 
「了解!アンフェタミン強制過給機『Vブースト』起動!」そう絶叫したオペレーターが、目の前にある赤いボタンに拳を叩きつけた。
それまで静まり返っていたオペレーティングルームに赤色灯サイレンが鳴り響く。
 
別のオペレーターが間髪入れずに報告する。「シアーロック解除、バイパス開放!アンフェタミン注入量、上昇を継続・・・6500・・・7000・・・7500・・・レッドゾーン到達まであと27秒!」
 
Vブーストの起動により、VMAX1200の全身が激しく痙攣する。血管が浮き上がり、眼球は飛び出さんばかりだ。やがて肉体の振動も器官の脈動も収束した。VMAX1200の表情は驚くほどに穏やかだ。
 
「ど、どこに行きやがった?」VMAX1200の姿を見失ったKS1は、不安気に辺りを見回した。
「ヴゥ」
人ならざる者の声が頭上から聞こえた。
「ヒ、ヒィィィ~~~~!」
恐怖におののきながらもKS1は、銃弾を発射すべく、声がした方向に視線を向けようと顔を上げた。
そこにはキチンと揃えられたVMAX1200の両の足の裏が視界一杯に広がっていた。
直上から落下してきた重量物がKS1を押し潰す。
「ゴキャ、メキョ、グリュ」といやらしい音を立てながら、KS1の小柄な体躯はアコーディオン状に圧縮した。
 
「クソが!」
FX400RKS1の死骸の上で腕を組み直立不動のVMAX1200に向け、手にしたM3サブマシンガンを乱射した。それに倣って他のメンバーも引き金を引く。しかし、再度の集中砲火もVMAX1200の肉体を停止させる事は叶わなかった。
圧倒的な反応速度で弾丸を掻い潜り接近すると、1つ、また1つと、自分を射殺しようとする火点を、VMAX1200は確実に潰していった。
ある者は首を捩じ切られ、ある者は両腕を引き千切られた。
 
最後に1人残ったFX400Rは覚悟を決めた。
 
つづく