直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑪

ケンカ上手のZ1100GPらしからぬ、今回の関東侵攻における不手際に、GPZ1100Fは当初から不自然さを感じていた。そして今日の幹部会における顛末。
「裏がある」、GPZ1100Fが抱いていた疑念は確信に変わった。
 
幹部会が終わると、GPZ1100Fは配下の者にZ1100GPの居所を探らせた。結果、探すまでもなく、Z1100GPは新世界の馴染のクラブでヤケ酒を煽っている事が判明した。
そしてGPZ1100F自ら店に出向き、偶然を装ってZ1100GPの前に立った。
 
声を掛けられたZ1100GPGPZ1100Fを一瞥すると視線を戻し、それまで通り無言で中空を睨み続けた。
それを確認したGPZ1100Fは、顎をしゃくりホステス達に「席を外せ」と指示した。
怒りに我を忘れ、茫洋としたZ1100GPの隣に座ったGPZ1100Fは一言。
「愛知の新興宗教に肩入れしたんですかねえ」
Z1100GPは激怒した。
バレバレやん。
 
Z1100GPはテーブルにあったアイスペールを掴むと、そのままGPZ1100Fの頭頂に叩きつけた。GPZ1100Fの頭頂から血液がピューと噴出した。ホステスたちが悲鳴を上げた。
しかしGPZ1100Fは平然としている。そして「みっともねえなあ」と呟くと、GPZ1100Fは左手でZ1100GPの胸ぐらを掴み、アイスピックを手にした。そして、そのアイスピックの切っ先をZ1100GPの首元に押し当て、
「本当に、みっともねえなあ」と、店中に響き渡る大きな声で独唱した。
 
Z11000GPの脳は行動制御に介在できなくなり、闘争本能が神経を司り肉体を支配した。Z11000GPは、すかさずテーブルの端を足で力任せに踏み蹴った。必然的にその反対側のテーブルの端は勢い良く上方に打ち出され、GPZ1100Fの顎をしたたかに打った。GPZ11000はのけぞり嗚咽した。
 
ソファから転げ落ち床に四つん這いになりながら喘ぐGPZ1100Fに、Z1100GPが悠然と歩み寄り力任せに蹴り飛ばした。GPZ1100Fの長身痩躯が宙に浮き、数メートル離れたソファ席に落下した。
(たく馬鹿力が)そう思いながらGPZ1100Fは立ち上がると、目の前にテーブルが飛んできた。テーブルを素早く躱したGPZ1100Fは、胸のホルスターに右手を滑り込ませるとS&W・M29を引き抜き、Z1100GP銃口を向けた。それは、Z1100GPが自らのコルト・ガバメントで同じ行為を完了させたのと同時であった。
 
店内は凍りついた。酔客達も、ホステス達も、ボーイ達も、チーママも、一言も声を上げる事ができず、動く事ができなかった。泣き叫ぶ事も、逃げる事もできなかった。
静寂が支配し、時間だけがゆっくりと経過した。
 
長く重たい数分が経過すると、GPZ1100Fは笑い出した。そして、
「兄さん、やっぱ、アンタはもうダメだ」と言い放った。
Z1100GPの右手に握られたコルト・ガバメントが静寂を打ち破るように銃声を上げ、45ACP弾を包んでいた薬莢を排出した。
 
Z1100GPコルト・ガバメントが放った銃弾は、GPZ1100Fの身体に触れず、彼の背後の壁に飾られていたラッセンの絵画(カラー印刷)を粉砕した。
 
Z1100GPは怒りに震えまくっている。同時に怖れていた。
それを見逃すGPZ1100Fではない。
 
その様子を見下すようにしていたGPZ1100Fは再び口を開いた。
「アンタ、会長に切られるな。まあ俺が今日、ここに来て、こんな事を話して、こんな真似をしてんのが、その証拠だわな」
GPZ1100F、手前ェ、まさか会長の命令で・・・」
「オイオイ、だったらこんな真似するワケねえだろ。ハナから手下に命じてこんな糞ビル、マイトで爆破するわ」
「じゃあ、なんで・・・」
 
GPZ1100FS&WM29を胸のホルスターに収めながら一歩ずつ、Z1100GPに近づいた。そして、Z1100GPの眼前に至ると、
「決まってんだろ。兄さんを死なせたくないからだよ」
GPZ1100Fは涙を浮かべながら、Z1100GPを抱きしめた。
 
つづく