直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説⑤

FJ1200内閣の政策の目玉の1つが「脱原発」。
原子力から代替エネルギーに転換すべくその分野への予算拡大、すなわち原発関連予算の削減を今次通常国会でめざす事としていた。そのために設置したのが「原子力発電所検討委員会」である。
FJ1200自らが議長を務め、関係閣僚・学識経験者・各種市民団体代表者で構成されていた。しかし、電力会社や地方自治体、ゼネコン関係者などはメンバーに入っていない。
 
当然である。FJ1200内閣総理大臣の掲げる「脱原発」は、すなわち「脱原発利権」でもあったからだ。これがZ1300の癇に障ったのである。
 
「いかん、いかん、いかんですぞ~総理」
FJ1200を睨みつけながら、Z1300は口を開いた。
「良いですかな総理、これからはエコロジーの時代ですぞ。すなわち自然を破壊して建造する水力発電所や、Co2を排出する火力発電所、これらに頼ってはならんのです。すなわち、自然に環境に優しく、なおかつ現実性のあるエネルギーこそ原子力。そのさらなる建設促進こそが、これからのエネルギー政策」
 
「はは~、御説ごもっとも」
FJ1200は深々と頭を下げた。
「そもそもその年の降水量の影響を受けやすい水力発電、中東の政情を含め原油価格に左右される火力発電も、電力の安定供給という面から理想にほど遠い。やはり原子力こそが日本の将来を支える理想的なエネルギーであると、この年寄り、かように考えているのですが、如何かな?」と恭順を強いる口調で、Z1300FJ1200を質した。
 
「全くもって御館様の慧眼、このFJ1200感服いたしました。つくづく己の未熟さ、思慮の足りなさを痛感いたした次第です。是非とも今後の委員会、参加メンバーも含め再考させていただきたいと存じます」
FJ1200の言葉に、Z1300はニタリと笑った。
 
「せっかくの機会ですので是非とも御館様のご教授を賜わりたく存じます」
Z1300鷹揚に首を縦に振った。
「諸外国に限らず、我が国でも原子力発電所の深刻な事故が発生しました。今後、原子力政策を推進するのであれば、どのような対策を講じるべきでしょうか?」
 
Z1300は笑いだした。
「グエッヘッヘッヘッヘッヘッ~。総理、例えばですぞ、太陽光発電のパネルや風力発電の風車が、台風や地震で吹き飛んだり倒れたりして、国民の生命・財産を奪う恐れもあるのですよ。昔からの水力発電用のダムが決壊、火力発電所の爆発、どれも重大事故の危険が想定されていて、どうして原子力だけが危険なのか、この無学の年寄りにご説明願えませんかね?」
「しかし、原子力発電所の事故による被害は極めて深刻です」
「事故が起きるからと躊躇していては、迅速かつ果断な決断ができず、どんな政策も法改正も適いませぬぞ」
「それは、国を預かる政治家として正しい姿なのでしょうか?」
「無論です。原発ができれば、その土地の民草どもにも多少の恩恵はあるでしょう。奴らはその恩恵を得るべく、自らの命を切り売りする。それが正しい国民の姿、国家の在りかたですぞ。総理にはもっと日本国のリーダーとして、大所高所から物を見ていただきたいですな。おっと、隠居の分際で差し出がましい真似をいたしましたな。ですが私の注進、努々疎かになさいませぬよう」
そう言い放ち、Z1300は改めてFJ1200を睥睨し恫喝した。
 
FJ1200は、再び頭を深々と下げた。その伏せた顔には屈辱と憤怒の表情が渦巻いていたが、Z1300の邪悪な圧力に屈するしかなかった。
 
「おいZ1000ST。総理はお帰りになる。例の物を」
Z1300は、自分の傍に控えていたZ1000STに命じた。
Z1000STFJ1200の前に進み出ると、A4サイズの茶封筒を差し出した。
 
「これは?」FJ1200が尋ねた。
「ほんの手土産です、総理。今、革新民主党のゴキブリどもが労働法制の改正でごねている。それを使えば、奴らの4~5匹の政治生命を断つことができます。どうぞお使いください」
 
原発建設推進のご褒美が、野党のスキャンダルか)
FJ1200は暗澹たる気持ちで、辞去した。

つづく