直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説③

Z会による東日本侵攻は、まずは外堀を埋めるといった正攻法であった
すなわち、北陸から日本海沿いの東北地方を支配下に置くと、一気に岩手・宮城・福島を強襲。さらに、岐阜・長野・山梨も無血開城となり、三重から静岡までの太平洋沿岸と関東16県以外の本州を2年足らずで勢力下とした。
 
この電光石火の制圧戦は、先の近畿・西日本でのZ1000J組・Z1100GP組の蛮行が大きく影響した結果だ。すなわちZ会と争う場合、負けはおろか勝ってもその損害は大き過ぎる。だったら、表向きだけでもZ会に従ったほうがマシである。いずれはZ会と本田技研興業の直接対決となるだろう。その時、Z会が優勢ならそのままで、本田技研興業が盛り返す事があれば裏切れば済む話である。
「渡世の義理」だの「任侠道」だのと立派なお題目を唱えても所詮はヤクザ。その思考回路は、日和見主義の性根が腐った社会のクズそのものである。
 
もちろん、Z会としても北陸・東北・中日本などの新たに傘下に入った組織が、いつ裏切るかわかったものではない連中だと百も承知だ。しかし危惧する必要はない。本田技研興業に勝てば済む話である。勝算があるから始めた戦争だ。
日本三大都市である名古屋のある愛知県はもとより、本田技研興業の西日本侵攻の最前線拠点である鈴鹿サーキットを有した三重県、山葉組と鈴木組という2大勢力が覇を競う静岡県、そして本田技研工業が本拠地を構える関東16県。これからがZ会全国制覇にとって、まさに正念場である。
 
三重県にはGPZ1100F組系Ninja組の幹部ZX10Rが、手下18名と共に乗り込んだ。この動きに対する本田技研興業の対応は素早く、鈴鹿8耐組組長のCBR1000RR自身が陣頭指揮に立ち、Ninja組の先遣隊の潜伏先を強襲。激しい銃撃戦となり、Ninja組側は3名死亡・2名重傷、鈴鹿8耐組側は重傷1名のみという結果であった。Z会にとって、東日本進出以来、初めての敗北である。
 
這う這うの体で逃げ戻ってきたZX10Rに、Ninja組組長ZX14通名ZZR1400)は「伊賀や甲賀の本場で、組の名に泥を塗りやがって!」と激怒。雪辱を晴らすべく、若頭のZX12Rを送り込もうとするも、レギュレーション的に不可能であるため断念した。
その後は、鈴鹿8耐組の攻撃を避けるべく、アジトを複数用意し構成員も1ヵ所にまとめず、ZX10R隊とZX6R隊の2部隊体制とし、鈴鹿8耐組の構成員や関係者に対する暴行、本田技研興業の息のかかった飲み屋や風俗店での嫌がらせなど、ゲリラ的な戦術を行った。
いずれにせよ、三重県におけるZ会と本田技研興業の抗争は膠着状態に陥った。
 
「おいおい期待のルーキー、デカイ口叩いておいて三重で随分と手間取ってるみたいじゃねえか」
幹部会の席上、Z1000JGPZ1100Fに向かってそう言った。一瞬にして幹部会の空気が凍りついた。
Z1000Jには悪意はない。むしろ本人は、フレンドリーに励ましているつもりである。しかし、生来の口の悪さ、他人の心情に鈍感なため、えてして誤解を生む発言となる。
Z1000Jの兄さんのおっしゃる通りです。この責任、あっしが直接出向いてケジメをつけるつもりです」
「それはいかん」Z1000Rが言った。
「GPZ1100F、お前には北陸・東北で新たに傘下に加わった連中に、しっかりとZ会の流儀を叩きこむ仕事がある。奴らが造反なんてふざけた真似をせんようにな。三重の事は配下の連中に任せておけ。今のままでも、鈴鹿のクソバエどもに勝手させない牽制ぐらいにはなろう。それより」
Z1000RZ1000Jを睨みつけた。
「くだらん無駄口を叩くぐらいだから、お前、よっぽど暇なようだな」
「ええ会長。この2年、こちらがわざわざ出向いてやっても、どいつもこいつも白旗揚げて降参だ。つまんなくていけねえ」
「そうかい。だったら仕事をやろう。静岡、お前が直に出向いて山葉と鈴木に引導渡して来い」
「へい!」
Z1000J歓喜した。
 
つづく