直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

極めて限定的なオートバイ好きのため「だけ」の小説②

「ムショ暮らしが余程堪えたみてえだな、涙もろくなって帰ってきやがった。頼むからよ、湿っぽいのは勘弁してくれ」
会長の椅子に座るZ1000Rの隣に立つ、Z1100GPが冗談めかして言った。それからZ1000Jに歩み寄ると、無言で抱きついてきた。
「すまん兄弟・・・辛い思いをさせちまった」
「まったく、涙もろくなったのどっちなんだか。デカい図体してみっともないですぜGPの兄貴」
おお、すまんすまんと言いながら、目を真っ赤にはらし鼻を啜るZ1100GPZ1000Jに抱きついていた腕を放した。Z1000Jは、こうしたどこか情にもろくて子供っぽいZ1100GPの性格が嫌いではなかった。
 
Z会の近畿制圧における「殺しの1000J、潰しの1100GP」の活躍は、日本の極道界を震撼させた。大量のヒットマンを放ち、敵対組織の構成員なら幹部からチンピラ、さらにはその家族や縁故のある者まで見境なしに殺害するZ1000J組。一方、Z1100GP組の手口は、なんの前触れもなく、いきなり相手の組事務所にダンプやユンボで突入。泡を食った敵組員に向けマシンガンを乱射。最後はダイナマイトで事務所を爆破するというもの。
こうした、手段を選ばず一般市民の犠牲も顧みないZ1000J組とZ1100GP組の残忍さや凶暴性は、Z会の本質を象徴するものであった。
 
そんなZ会の二大幹部が揃いも揃って涙を流す姿を、Z1000Rは微笑ましく思いながら眺めていた。そして「2人とも続きは今夜の出所祝いでやれ」と言い放った。
このZ1000Rの一言で2人とも、「殺しの1000J」と「潰しの1100GP」に戻った。
 
「会長、それはそうと」
Z1000Jがドアのほうに目をやりながら言いかけると、Z1100GPが、
「そうだ兄弟、すっかり忘れてた。紹介する。お前がムショに入ってた間、まあお前さんの代役というのも言い過ぎだが、新しく直参の幹部になったGPZ1100Fだ。おいGPZ1100F、ワイの兄弟にあいさつせんか」と、Z1000Jの心を察してかその疑問に答えた。
ドアの傍に立っていたGPZ1100FZ1000Jに歩み寄る。そして、「お初にお目にかかりますZ1000Jの親分。GPZ1100Fと申します。右も左もわからない新参者ですが、今後、何卒お見知りおきを」と自己紹介をした。
Z1000Jは「右も左もわからんガキが、どうしてここにいるんだ?」と言うと、ジロリとGPZ1100Fを睨んだ。
「おいおい兄弟、つまんねえ揚げ足を取るもんじゃないぜ。そいつ、ひょろっとして頼りなく見えるが、意外と腕は立つし頭も切れる。まあ、直参幹部会の期待のルーキーなんじゃ、あんましいじめんでくれんか」と助け舟を出した。
 
しかしZ1000Jに凄まれても、GPZ1100Fに動じる素振りはない。なかなか肝が据わっている。舶来物のスーツをスマートに着こなした優男然とはしているが、強靭な肉体がその下に隠れているのは一目瞭然だ。
「そうかい、GPZ1100F、まあ、これからよろしく頼むわ」
Z1000JGPZ1100Fの肩をポンと「普通」に叩いた。GPZ1100Fは微動だにしない。なるほど、確かに期待のルーキーかも知れん。Z1000Jはそう思った。
 
「新入りの品定めはもういいか?」
Z1000Rの一声で、3人は直立不動の姿勢となった。
「それじゃ本題に入らせてもらう。これはまだ幹部会に上げておらん話なんじゃが」
「会長!では、いよいよ」
「わしの話の腰を折るとはZ1100GP、お前、偉くなったな」
「す、すんません・・・」
「まあ、そーゆーことじゃ。やっとZ1000Jも戻ってきてメンツが揃った。わしらZ会、東日本に進出する。本田技研興業もろとも、CB1100Rのハリボテブタのクソガキに引導渡したる」
 
東日本進出とはすなわち、Z会による闇社会の全国制覇を意味する。
 
(出所して早々に楽しくなってきやがった)
Z1000Jは心の中でそう呟くと、自分の血液が静かに沸騰していくのを感じた。

つづく