直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

今更ながら100円ショップにハマっています

茨城県の県央に住んでいますとですな、自動車で1時間もかからずに笠間に行けるのですよ。
笠間と言えば焼き物です。
てなワケでして、我が家の食器の半分は笠間焼です。

残り半分は、益子焼と有田焼が4分の1、その他が4分の1であります。

でですな、実は「その他4分の1」が最近の私のブームであったりします。

内訳は、リサイクルショップの中古品や100円ショップ製。
なんとも貧相で俗悪な代物どもです。
それが、なんとも言えぬ風情がありまして。

例えば今、この記事を書きながら私、ビールを飲んでいるのですけど、コップは昭和の居酒屋でよく使われていたキリンのヤツ。
昔から欲しくって、ヤフオクとかで買おうかと思っていたのですけど、近所のリサイクルショップで大量に売っていたモノですから、とりあえず4つばかり購入しましたわ。
そんで、今や一番のお気に入りです。

次は利き酒用の蛇の目徳利&お猪口セットやな。
今使っている5合徳利は、この歳になると流石に次の日、二日酔いになるでの。

まあ、リサイクルショップは普通のお店では売っていない「掘り出し物」と言うより、こーいった私好みの「お下劣・キワモノ」が売っている可能性があるワケでして、それ程、気を病む必要はないのです。

問題は100円ショップのヤツ。
いや~、実にヨロシ。
何が良いって、とにかく貧乏臭くて美的教養が完全に欠落した大量生産の使い捨てだからこそ醸し出せる、経済的困窮による切実な生活のいじましさ、使い捨ての労働力という社会的底辺から逃れられない己の人生に対する絶望と怨嗟、そーいった後ろ向きの背景をヒシヒシと感じられるトコロ。

100円ショップの食器なんか普通、不渡り出して夜逃げした町工場の社長一家とかが、潜伏先の築50年ぐらいの木造ボロアパートの一室でミジメに暮らす時に使うものじゃない。
楽しむための食事とは無縁の、生きるためのエサを入れる容器ですよ。
刑務所の臭い飯をよそうアルミ製のエサ入れ、アレと一緒。

つまり、そういった現実社会のおぞましさを投射している点が、100円ショップの食器の素晴らしさなのです。

まあ、昔から磁器や陶器に限らず、美術品や工芸品や民芸品とは、そーゆー感じでモノを通じ、その背景・精神に触れて楽しむのが作法ですからね。
工業品も本来、そのように楽しむべきなのでしょうが、それができない美的教養と芸術的感性が完全に欠落した低能で無知蒙昧の品性下劣な大衆が、ユーザーなる神の圧倒的大多数派になったので、新車で売られている自動車もオートバイも悉く、高価で高性能で利便性が高く経済的で合理的なだけの薄っぺらいゴミクズ同然の代物になってしまうのも仕方がない事なのです。

それはさておき。
梶井基次郎の「檸檬」って小品がありますです。まあ、有名な作品ですけどね。

「何故だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。風景にしても壊れかかった街だとか、その街にしてもよそよそしい表通りよりもどこか親しみのある、汚い洗濯物が干してあったりがらくたが転がしてあったりむさくるしい部屋が覗のぞいていたりする裏通りが好きであった。」

「私はまたあの花火というやつが好きになった。花火そのものは第二段として、あの安っぽい絵具で赤や紫や黄や青や、さまざまの縞模様を持った花火の束、中山寺の星下り、花合戦、枯れすすき。それから鼠花火というのは一つずつ輪になっていて箱に詰めてある。そんなものが変に私の心を唆った。」

「察しはつくだろうが私にはまるで金がなかった。とは言えそんなものを見て少しでも心の動きかけた時の私自身を慰めるためには贅沢ということが必要であった。二銭や三銭のもの――と言って贅沢なもの。美しいもの――と言って無気力な私の触角にむしろ媚こびて来るもの。――そう言ったものが自然私を慰めるのだ。」

都合の良い部位を抜粋してみました。

100円ショップの安物食器には、汚い洗濯物や鼠花火と共通のみすぼらしい美があると思います。
いや、みすぼらしいと言うより、いじましい美かもしれませぬ。

齢45にして無職であった独身男性の自分。ようやくありついた工場の派遣社員としての勤め口。
賃料月3万円のアパートで始まる新生活。

外食はお金がかかるから自炊をしよう。
それには鍋やフライパンが必要だ。お箸も食器もコップも必要だ。
ニトリ無印良品、ホームセンターのは高いから、ここはやっぱり100円ショップ。
あらあら、100円でも意外とおしゃれで実用的な茶碗や湯飲みが揃うじゃないですか。

今夜の晩御飯は、いつものインスタントラーメンだけど、新生活スタートの記念日だから、贅沢して溶き卵とウインナーも入れちゃいました。
食後は、明日の初出勤に備えて英気を養うため、タカラのワンカップ焼酎をチビチビやりながら、テレビのバラエティ番組鑑賞に耽りましょう。

翌日。
「ピーポーピーポー」
「なんだ?事故か?」
「新入りの派遣が10トンプレスで頭を潰されたらしい」

カーテンがないのでダイレクトの西日が差し込む、二度と主が戻る事のない埃っぽい賃料月3万円のアパートの一室。
その6畳間の、折り畳み座卓の中央に置かれた、ワンカップの空瓶に挿してある一輪のマーガレット。

・・・とまあ、そんな情景が容易にイメージできる100円ショップの安物食器。
実に、風情がありますです。