直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

「淡水大魚釣り」小西茂木著

結論から述べます。この本を探しています。
お持ちの方は、今すぐヤフオクに出品してください。それがアナタの義務であります。

イヤ、ホント、ゴールデンウィークが明けたら、神保町に探しに行こうかと考えております。
まあ、いわゆる文学的・歴史的・美術的価値はゼロですから、ワゴンセールに紛れていたりなんかして、意外と安いかも?と淡い期待を抱く一方、この本、この分野では神の福音書そのものらしく、最高位の稀覯本として信仰の対象になっているようです。
当然そのくらいの情報、、生き馬の目をくり抜いて佃煮にして食べちゃうような、神保町に巣食うの因業でがめつい古本屋のオヤジやオバサンどもなら百も承知でしょうから、まあ、あったら相応の値段なのでしょうなあ。

どんな本かといえば、単なるレンギョ釣りの手引書です。
ハクレン釣りがメインですが、コイ・ソウギョ・コクレン・アオウオといった、まあ、関東平野に流れる巨大なドブ川に生息する気色悪い大型淡水魚釣りに関する釣りの本です。
こー書くと、たぶん信者の皆さんに簀巻きにされて利根川に捨てられてしまうかも知れませぬ。
もちろん、それだけの内容なら私も別に欲しくはありませんよ。

ご存じの通り、コイ以外の魚、レンギョ(ハクレン・コクレン)も、ソウギョも、アオウオも中国原産の外来種。ハクレン・ソウギョは戦前に食用として中国から持ち込まれた魚で、コイツらに紛れて連れてこられたのがコクレンとアオウオです。
で、まあ、そんなタンパク質確保の作戦が上手くいくわけもなく、結局、東京近郊のデカい川に利用価値のない化け物みたいな魚が生息するようになったワケであります。

それでも1メートルから2メートルにもなる魚たちですから、釣り人にとっては魅力的なお魚なワケでして。
でもって戦後、「あのデッカイ魚って、どーやって釣るの?」って話になりました。そりゃそーですよ、もともと日本にはいない魚ですから、釣り方がまったく確立されていなかったんですよ当時。
すると、荒川でレンギョ釣りに熱中して、独自に魚の生態を研究し、釣技を確立しようと奮闘されている御仁がおりました。
その御仁こそ、著者の小西茂木先生その人なのであります。
つまり小西先生はレンギョ釣りのパイオニアであり、その理論と実践の足跡こそ、この「淡水大魚釣り」なる名著なのです。

この本が出版されたのは、私が生れた頃と同じ昭和40年代。
本の舞台である荒川や江戸川など、私が物心ついた頃にはすっかり巨大ドブ川化。生きた魚が泳ぐのではなく、死んだ魚がプカプカ浮いて流されていく川でした。誤って落ちたら溺れ死ぬのではなく、猛毒の化学薬品で汚染されたヘドロに飲まれて狂い死にすると固く信じており、まさに恐怖の対象でしたです。

「近所の川は死の川」、そんなイメージが強かった少年時代の私。そんな私が、父親の蔵書として家にあったこの本を読んでみたところ、死の川になる前の姿を垣間見たといいますか、なんか希望なのか安堵なのか、不思議な心地良さを感じました。
そんで、親父の本棚からこの本をパクり、自分の蔵書とさせていただきました。めでたし、めでたし。

ところが埼玉の東川口に引っ越した際、紛失してしまったのです。たぶん、引っ越しを機に要らない本を処分した際、それらに交じってしまったんだと思います。何たる不覚。いとかなし。
そんなワケで、これまでも思い出してはネットでちょくちょく探してはいたのですが全く見つかりません。

まあ、いずれにしても、私好みのヘンな本です。
いわゆる、ありきたりのマニュアル本ではありません。だって、マニュアルを作る過程を記した本ですから。
何が正解かわからない中、正解を求めて彷徨いつつも前進していく熱意を、地に足の着いたしっかりとした文体で綴っており、釣りに興味はなくても一定レベルの知的好奇心のある人なら、純粋に読み物として楽しめると思います。

そうそう、小西先生の夢ってのが、キレイになった江戸川の川辺に、幼い少女が近づくと、大量のレンギョが近寄ってくる光景なんですって。作中にそう書かれています。
考えてみれば結構なオカルトですよ、ソレ。だって、レンギョってマジでグロいですもん。
例えるなら、きらめく木漏れ日の中に佇む軽やかなワンピース姿の見目麗しき乙女の全身に、全長50センチのナメクジが大量に群がっているようなもんです。

そもそもコイ科の淡水魚って、デカくなれればなるほどグロテスクですからね。ウグイやニゴイなんかその典型。そーいや千波湖のコイ、白鳥さん達のご飯の食べ残しの喰い過ぎのせいなのかしら?歪にブクブク太って巨大化しており非常にキモいです。

ハクレンは、私にとっても思い出深いお魚です。
中学生の頃、牛久沼にバス釣りに行った時、漁師のオッサンに「コレやるよ!」と言われて、1メートルぐらいのハクレンを足元に投げて渡された時は、マジでションベン漏らしそうになりました。汚い白色の魚体は血まみれで、受け取ったはいいものの、どーする事も出来ず沼に捨てました。そしたら、しばらくプカプカ浮いていたので「死んだかな?」と思っていたら、いきなり身を翻し沼底に消えていきました。

その夜、家に帰って寝ていると、「びちゃ、びちゃ」というずぶ濡れの毛布を引きずるような音で目が覚めました。すると、強烈な生臭さが自室に充満しています。何事かと身を起こすと、目の前には昼に助けたハクレンが立っています。
魚が陸上で「立つ」ワケがないのですが、そのハクレンにはすね毛だらけの左右の素足が生えていました。しかもご丁寧に胸ビレのあたりから両腕も生えています。結構な筋肉質でした。最初、サカナの着ぐるみ姿の変質者かと思いましたが、漁師のオッサンにこん棒で殴られた跡がいくつも残っている事からも、間違いなく昼間のハクレンです。
「ボ、ボク・・・」ハクレンがしゃべり出しました。
「恩返しに、き、来たんだなあ~。でもボク、なんにもできないんだなあ~」
「じゃあ帰れよ!、いや、帰って下さい。お願いします」
「そ、それじゃあダメなんだなあ。それにもともと、イジメられっ子のボクにはあの沼にも居場所なんかないし・・・。それに、命を助けたって事は、最後まで責任を取るって事だろう~?お、お前、彼女いないんだろ?だったら、ボクが彼女になってあげるよ~さあ、一緒に飛び跳ねながら交尾しよう。うひひひひひひ~!」
「いや~~~~!!!!」

そんな思春期の甘酸っぱい思い出を蘇がえらせてくれる「淡水大魚釣り」。
私の大切な一冊なのです。