直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

「私説博物誌」筒井康隆著

小学生の頃は星新一先生にハマっていた私ですが、中学生になってからは筒井康隆先生の短編集を貪るように読むようになりました。

ところが「時をかける少女」は一度も読んだ事がありません。きっとオモシロいのでしょうケド、なんか私の中の筒井センセイのイメージが壊れそうなので控える事にしているのです。

とにかく筒井センセイの短編は、「農協月に行く」「アフリカの爆弾」「走る取的」「メタモルフォセス群島」「五郎八航空」「老境のターザン」など、研ぎ澄まされた恐怖と笑いの共存、圧倒的な文章力による鮮明な状況描写、珠玉のエロ・グロ・ナンセンス、愉快な文章とはなんたるかを思春期の私の心に刻み込んでくれた傑作揃いであります。
お蔭で私は品行方正で素直で真面目な男子中学生として、クラスで「アイツ、四六時中エロ小説読んでいる」と陰口を叩かれるようになりました。そのように私を誹謗中傷した同級生をよく、チンコ塩もみの刑に処したものです。

ちなみに私のイチオシ!は「乗越駅の刑罰」です。コレ、ホント、スゲーですよ。

筒井センセイのスゴイ所は、とにかく時代を超越しているって事。だって、40年以上前の作品なのに、今の時代でも「新しい」と感じられるのです。まあ、基本的に一流のSF作家ですから当然と言えば当然なのでしょうが、なんでしょう?科学知識とかそーゆー意味でのSFではなく、荒唐無稽なif設定が、実は普遍的な真理に至る道標になっている。

当然ながらこの天才、小説だけでなく評論・エッセイもキレッキレです。
だって、エッセイ集のタイトルが「狂気の沙汰も金次第」ですぜ。山藤章二画伯との最高のコラボレーションが炸裂したこのエッセイ、読まずに死んだら絶対に損ですよ。

でも、私が一番好きな筒井センセイのエッセイは「私説博物誌」ですです。
だって、私の大好きな動物たちがテーマですもの。

基本的には、様々な動物や植物の生態や特徴を通じ、愚かで醜悪なニンゲンどもを笑い飛ばすエッセイです。読むとわかるのですが、ちょこちょこ筒井センセイのお父さんが出てくるのですよ。で、なんでも高名な動物学者なんですって。

でもさ、それまでセンセイのスプラッターでダークな爆笑作品に触れてきた中学生としてはですね、「ま~たまたセンセイったら、自分の身内をヘンな人設定してやがる。だいたいセンセイ、姓が同じだからって筒井順慶の子孫とか言っちゃって小説書いていたりするし」とまあ、そー思うわけです。実際、私説博物誌も筒井節全開ですから。

ところが調べてみると、センセイのお父さん、本当にちゃんとした学者様で天王寺動物園の園長だったりします。

で、センセイのお父さん、「ゲテモノ(悪食)趣味の会」とかを主催していたそうです。で、どこそこに毛虫が大量発生したとか聞きつけると、会員全員わさび醤油持参でその場に集合。そして毛虫を「ウマイ、ウマイ」と言いながら
食べるそうです。そんなお父さんからワンポイント・アドバイス。毛虫はちゃん毛焼きしないと喰えた物ではないそーです。
「え~っ、それは流石に筒井センセイの創作でしょ」と思っていたら、これもどうやら事実だそうです。

このクラスの人の作品って、どこまでが本当でどこからがフィクションか、その境界が曖昧で、結局は全てが真実になってしまいます。虚構のような現実と、現実と見紛う如き虚構を積み上げ、確固たる世界を構築する。
愉快な文章作品の必須条件ですな。

いずれにせよ、私も銀座のバーで苔むしていきたいものです。