直六国防挺身隊

母は来ました今日も来た。嫁をイビリに今日も来た。

戦国ヒャッハー③

「宇喜多」と言えば、たまに大河ドラマを観るぐらいの、戦国時代にあまり興味がない紳士淑女にしてみれば、
関ヶ原の合戦に西軍の主力部隊として活躍した若きイケメン武将である秀家くんを想像されると思います。
 
ですが、そもそも、なんで、若い秀家くんが徳川家康前田利家らと同じ、豊臣政権の五大老に抜擢されたのでしょうなあ。
それこれも全部、秀家くんのお父さんである、宇喜多直家さんのお蔭なのです。
 
宇喜多直家ってどんな人?
日本の歴史上、最も多く暗殺・謀殺をした人です。
 
もともと宇喜多家は、備前(今の岡山市あたり)を支配していた浦上家に仕えていました。
で、直家くんのお爺さんの能家さんは、浦上家中でも随一の実力者でした。要するに直家くんは、お爺ちゃんが会社の重役のボンボンだったワケですね。
 
ところが直家くんが6歳の時、このお爺さんが同僚の島村盛実って人に殺されます。
 
能家爺さんと島村さんは、もともと仲が悪かったのです。そこにきて殿様の浦上宗景が、力のある能家爺さんにビビッており、死んで欲しいと思っていました。そんなワケで、普通なら殺人を犯した島村さんが罰せられるべきですが、なぜか直家くん一家を追放。島村さんはお咎めなしで、むしろ重用するのです。
この浦上宗景って殿様、外道だなあ。
 
そんなこんなで浦上家中から追い出された宇喜多一家、1年後に直家くんのお父さんが病死。母子家庭になります。
この辺りは現代日本と同じで、母子家庭ですから直家くんはグレます。
盗んだバイクを乗り回し、トルエン吸って年がら年中ラリパッパ。
それを見かねたお母さん、直家くんに「そんな事では、宇喜多家再興は成し遂げられません!」とお説教。
すると直家くん「私が頭良いと島村盛実にバレたら殺されてしまいます。だからバカのフリをしているのです」と答えたそうな。
なんか信長の少年時代のエピソードと被りますな。
 
やがて直家くんのお母さんは、浦上宗景に奥女中として仕えます。こうして直家くんは、伯母さんに育てられ、成人すると正式に浦上宗景に仕えるようになるのです。
 
名家のボンボンとして生まれ何不自由なく暮らしていたのに、いきなり底辺生活を余儀なくされ、父が死に、母も自分から去り、孤独な少年時代~青年時代を過ごした直家くん。そりゃ、人間性も歪みますわ。
 
直家くんが最初に任されお仕事は、乙子城の防衛です。
このお城、非常にショボいのですが、浦上にとっては重要戦略拠点。他国の軍隊や、海賊とかがちょくちょく攻めてきます。ところが直家くんと一緒にお城を守る兵隊さんは、わずか足軽30人。しかも浦上からの補給がないので、食べ物がない。責任重大なのに、会社のサポートは一切ななし。あきらかに新入社員に対するパワハラですな。
本当に、この浦上宗景って殿様、腐れ外道だなあ。
 
それでも直家くんは乙子城を守り抜きました。
お城で畑を耕し、アグリでオーガニックな自給自足生活を送ります。さらには夜な夜な、近隣の集落で略奪行為を繰り返します。
それでも食べ物が足りない。
すると、直家くんと愉快な仲間たちは、「絶食デー」なる自分たちルールを作ります。イスラム教のラマダンみたいなモノですな。この絶食デー、その後も宇喜多家中ではず~っと続けられたそうです。ヘンなの。
いずれにしても乙子城時代、辛苦を共にした直家くんと愉快な仲間たちは非常に強固な絆で結ばれます。
その顔触れは、岡利勝さん、戸川秀安さん、長船貞親さん、花房正幸さんなど、後の宇喜多家臣団の主力メンバーです。
 
とにもかくにも、このような実績を積み重ね、直家くんは浦上家中でも頭角を現していきます。
 
やがて浦上家中の実力者・中山信正さんの娘さんと結婚。
重役の娘婿となり、まさに順風満帆、着々と出世コースを歩んでいきます。
夫婦仲も良く、義父の信正さんとはプライベートで狩りやゴルフや飲み会など、フレンドりーな関係を築いていきます。
そんなある日、信正さんは直家くんに自分の家に泊まりに来るよう誘います。
直家くんは喜んでお呼ばれされます。2人でお酒を飲み、夜も更けてきたので信正さんが「婿どの、そろそろお開きにしますか」と言って立ち上がり、直家くんに背を向けました。
すると直家くんは、義理のお父さんである信正さんを、背中から刀で切りつけ殺害します。
 
これが直家くんの「初めての暗殺」です。
それから、あらかじめ待機させておいた手勢を、信正さんの自宅である沼城に招き入れあっさりと制圧。
 
それと同時刻、浦上宗景は家臣の島村盛実を呼びつけて「中山信正が謀反を起こしたみたいだから、キミ、やっつけてきてくんない?」と命じました。
沼城に到着した島村さん、どうも様子がおかしい。謀反の「む」の字も感じられない。辺りは静まり返っています。訝しく思いながらも、沼城の門を潜り城中に入ると、そこら中に潜んでいた宇喜多勢が急襲してきました。
こうして島村さんは直家くんに討ち取られたのです。
 
直家くん、お爺さんの復讐ミッションコンプリートなのです。
 
実はこれ、家中でも突出した力を持つ、中山・島村の両名にビビッた浦上宗景が、直家くんに「ジジイの復讐をさせてやる代わりに、お前の義父を殺してくんない?」と持ちかけた暗殺計画だったります。
本当の本当に、この浦上宗景って殿様、腐れ外道の畜生野郎だなあ。
 
まあ、それにホイホイ乗っちゃう直家くんも、かなりのものですが。
ちなみに直家くんの奥さんは、亭主に父親を殺されたショックで自殺します。
 
この最初の暗殺で味をしめたらしく、その後の直家さんは充実の暗殺・謀殺ライフを満喫するのです。
とにかく、殺しも殺しまくる上、暗殺・謀殺の手口がどれもこれも凝りに凝っているので、全てを紹介し切れないのが残念です。
で、数多の直家さんの暗殺事例で、私が一番好きなものをご紹介します。
 
直家さんが岡山城主だった頃のお話です。
岡山城の目の前に、穝所元常さんという人がいる滝口城というお城がありました。元常さんは毛利と手を結んでおり、直家さんとは敵対関係。
そんなある日、直家さんは意味不明な理由で、部下の岡剛介を岡山城から追い出します。
 
岡くん(エースをねらえみたいだなあ・・・)は、道すがら乞食の婆さんを拾い、須々木豊前さんのお城にやってきました。豊前さんも、元常さんと仲が悪いのです。
そんでもって「わけのわからんうちに解雇されました。年老いた母(アカの他人の乞食ババア)も一緒です。どうか私を雇ってください」とお願いします。岡くんは無事に就職でき、豊前さんのために一生懸命働きました。
それから数年の月日が流れます。岡くんは突如乱心したのか、年老いた母(アカの他人の乞食ババア)を置き去りにして、豊前さんの愛馬をパクり脱走します。
 
向かった先は滝口城。元常さんに会うや「豊前さんが意味不明な理由で私を罰しようとしてるから助けてください」と嘘をつくのです。
一方、全開バリバリでブチ切れ中の豊前さん、裏切り者への見せしめにと、岡くんの母親(アカの他人の乞食ババア)を処刑します。
 
それを知った滝口城の岡くん、「おのれ~須々木豊前、罪もない年老いた母(アカの他人の乞食ババア)をよくも!」と絶叫します。
実際に岡くんのお母さん(アカの他人の乞食ババア)は殺されているわけですから、元常さんも信じます。
というか元常さん、いわゆるホモです。でもって岡くんは美男子だったりします。
「岡くん、やらないか」なワケでして、岡くんはいろんな意味で元常さんに重用されていきます。
 
やがてある夜、元常さんは岡くんと二人きりで豊前さんをやっつける相談をします。まあ、実際に軍議だったのか、あーッ!だったのかは知りませんが。
そんでもって一瞬の隙を突き、岡くんは元常さんを殺害します。
 
こっそりと滝口城を脱出した岡くん、あらかじめ直家さんが用意してくれた船に乗って岡山城に無事帰還しましたとさ。めでたしめでたし。
 
いきなり滝口城ではなく、元常さんと敵対している豊前さんに刺客を送った点、その効果を最大限発揮するための乞食の婆さんを使った演出、ターゲットの性癖を調べ最も適した人材の選出。
いやはや、ここまでくると、もはや芸術です。
 
というか、乞食の婆さんが可哀そう過ぎます。
まあ、人生の最後にそれなりにいい暮らしができたでしょうから、本人的には問題ないかもしれませんが。
 
他にも、濡れ衣を着せて切腹させたり、狩の最中に「鹿と間違えた」と嘘をついて射殺したり、宴会に招いて毒を盛ったり、あの時代に可能なありとあらゆる暗殺・謀殺を実行しています。
 
特に直家さんがよく使ったのが、自分の娘をターゲットに嫁がせて、油断させてから殺害する方法。
常識的に考えたら、「よく」使える手ではないのでしょうが、直家さんはこの方法で一番多く人を殺しています。
そんでもってこの方法だと、ほぼ例外なく娘は父親を恨んで自殺します。
つまりこの方法、暗殺ポイントが娘分も加算され2倍になるから好んで使っていたみたいです。
 
直家さんにしてみれば、自分の娘なんて使い捨ての暗殺アイテムに過ぎないのでしょうな。
 
こうやって、直家さんはあんまり戦争を行わず、主家である浦上の勢力をどんどん拡大させていきます。
 
さてさて、この時代の中国地方、名実ともに戦国最強軍団の一角、毛利軍団が東方侵攻を虎視眈々と狙っておりました。元就は半分引退状態でしたが、不敗の猛将・吉川元春、稀代の軍略家・小早川隆景に率いられた毛利軍は、浦上なんかとは次元の違う強さです。
そんな毛利に、備中の三村家親が味方として加わりました。毛利元就をして「三村殿が味方になってくれれば、中国地方平定も楽勝~」とまで言わしめた三村家親さんもまた、浦上なんかとは格が違う強さを誇っておりました。
 
てなワケで、九州の大友、山陰の尼子といった難敵の相手で大忙しの毛利に代わって、三村家親さんが大軍を率いて備前に侵攻してきました。
 
浦上宗景はビビリます。そりゃそうですな。で、直家さんに「三村を追っ払ってきて~」と無茶振りをします。
ただこれ、実は直家さんの自業自得。自分の邪魔になりそうな有能な同僚を、ほとんど暗殺・謀殺しまくってしまい、自分以外の優秀な人材を浦上家中から消し去ってしまっていたからです。
 
戦っても100%負けます。大丈夫、直家さんには暗殺があるじゃないか!
 
直家さんは早速、家親さんの顔を知っている遠藤兄弟という2人のヒットマンを雇います。今回ばかりは、時間をかけてじっくりと暗殺を堪能するワケにはいきません。
遠藤兄弟は夜陰に乗じ、三村本陣に潜入。そして家親さんを見つけると、手にした火縄銃で狙撃。家親さんは即死します。
 
これが「日本で初めて成功した、銃による暗殺」となりました。
一説には「世界初」との事。
実はこれより以前、信長も火縄銃で狙撃されましたがこちらは失敗。
 
遠藤兄弟は苦労しながらも敵陣から無事帰還。
直家さんは2人を大いに労い、莫大な報酬を2人のスイス銀行の口座に振り込みましたとさ。めでたしめでたし。
 
こうして三村軍は備中に撤退し、備前に平和が戻りました。
 
それからしばらくして、家親さんの息子である三村元親くんが2万の大軍を率いて、再び備前に侵攻してきました。そりゃそうだ。父親を暗殺されたのだから、怒るよ普通。
 
またまた直家さんに迎撃命令が下ります。
しかし今度は相手も警戒するから、暗殺・謀殺は使えません。
それに撃退したといっても、大将1人を殺しただけで、三村軍の戦力は前回から温存されたまま。
しかも全員、卑怯な手で大将を殺されているのですから、やる気スイッチはマックスです。前回以上に勝ち目はありません。
どーする直家さん!
 
「しゃーねーなあー、たまには真面目に戦争すっか。戦争って肉体労働だから嫌いなんだよね~。あ~あ、超~メンドクセエ」
 
こうして直家さん唯一の戦歴「明善寺合戦」の幕が切って落とされたのです。